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クロードをソファーに座らせたまま、まずシトは護符を取り出す。何かを呟くと、自身の胸元に当てる。続いて、霊符を片手にして、一度瞳を閉じる。
――急激に冷え込む空気が、辺りに流れ込む。
それは、部屋の窓が開いたかと疑うが、窓は開かれておらず、暖炉の火も消えている訳でない。シトが、瞳を閉じた事で、突如起きたのだ。
……呪詛が反応したか。やっはり、結構厄介な術式使ってる。
しかし、このままでも仕方がない。一気に神通力を高めて、言霊詠唱を始めた。
「『呪術呪詛の理、解呪明解の理、陰行に闇を繋ぎ止め強念、陰陽五行思想にて穿つは……』」
霊符を持つ手で空中に方陣を描くように動かし回す。それに合わせ、空中に、紋章方神が徐々に描き出来上がる。
「……ぅぐっ、くぅぅッ」
「――く、クロードッ!?」
突如胸元を抑え苦しむ姿に、シルビナが近寄ろうとするが「触れてはならぬ!」とエマが、一喝した。
その言葉に、ビクッ。と伸ばした手を止めて、救いを求める様にエマを見つめるが、首を振られた。
「聖女よ? お前は、我が下僕を信じられないのかえ?」
「――で、ですが……」
「今、魔法の治癒は要らぬ。それに、お主以外にも我慢しておる者がおるのじゃぞ?」
その言葉に、周りに目を向ければ、ライガとフィーリの二人は、恐れる事なく目を反らさず、クロードの姿を見守り続ける。
ティエラとリナリーも、拳にして力を一杯握りながら、その苦痛を耐え、声を圧し殺してでも見ているのだ。
「……み、みなさん……」
「あの男も覚悟しておる。理解せい」
エマの低い声に、黄茶色の瞳が動揺しながらも、クロードを映す。然程から、空気が冷えて痛いと思えるこの波動は、シトによるのか定かではないが……今は見るしかない。
その間、シトの言霊詠唱は、順調に進む。但し、それに比例し、クロードの苦しみが増す。
呪詛のこの波動……蟲業四苦の法か。根の深い呪詛だ。
解呪の儀に反応する辺り、典型的な症状で、この解除はかなりの危険を伴う。ある意味、シルビナが呪い解除を行い無事であったのが信じられない。
聖女がどれ程凄いか分からないが、呪いを受けるのは必至だったと思える。問題は、こんな手の込んだのを、やりきれる……か? 素直に不安が過る程だ。
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