第四章 求め続けた末に

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 ここが異世界であれば、これは蟲業四苦の法に近い術式……いや、そうとしか思えない。この苦しみ方、クロードの体力を考えても、ゆっくりと見極める事も出来なさそうだ。  ――腹を括って、解呪勝負と行くか…… 「『……見失いし日常の光、釈迦より賜りしは救世(くせ)のチカラにて、導く回生の絶ち刃となれ――呪詛滅殺』」  手にした霊符の文字が青き光を帯びて、輝きを放つ。この勢いを落とさず、クロードの姿を目にしつつ、一撃で決めるべきだと……  ――胸元目掛けて、霊符を押し当ててる! 「――ぅぐっ」  苦痛にて言葉が詰まる。一瞬、震える体と見開く瞳が、全てを凍りつかせ、続いて、呼吸を小刻みにて繰り返し、表情が更に険しくなっていく。  その中、シトの思惑は、別にあった。呪詛の根底となる術式の解明。呪術は、相手へ不幸を招く為、これを神仏や妖魔の助力となる根源を引き出す術式構成がある。  これを掌握しなければ、呪詛を破る事は出来ない。“何を”呪いの根源として発現していたかを見極め、解かしていかなければならないのだ。 「……深い」  押し当てる霊符からこぼれ出る黒々しい光が物語る。呪詛の中でも、蟲業四苦の法は、複雑な部類ではないが、呪詛が深い位置に潜り込む。手早くやらないと、被害者の生命に関わるのだ。  ――と、シトの表情が変化する。    ……そんな事が、あるのか? いや、此処は異世界だよな。自分に問い掛けつつも、今は呪いを解くのを優先しなければならい。  解呪に必要な要素は揃った。加えて解呪するチカラを加え、言霊詠唱に合わせ、神通力を送り込む。 「ぅぐぅぅぅ……」   突如拡大する苦痛を気力で抑え込めるが、声までは止められず。 「――今、解けます」  シトの冷静な声に、場に居る者の期待が高まる中、一気にチカラを解放すると、手にする霊符が光と共に散り散りに崩れ去っていく。  呼吸を繰り返す暇もない時間で、霊符は全て消え、それに合わせ、クロードの(うめ)き声も収まりを見せた。 「はぁ、はぁ、……はぁ……」 「お疲れ様でした。気分は、どうですか?」 「ふぅ。……そうですね。先程の苦しみは消えましたが、治っていると言う実感は、ありません」 「呪詛は消えました。但し、衰えた体力が回復した訳ではないので、しっかり療養して下さい」  その言葉に合わせ、想いを抑えられないシルビナが、今にも泣きそうになりながら、ふらふらと、近寄って来た。
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