第四章 求め続けた末に

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「シトさん……本当に……本当に治ったのですか?」  穏やかな口調が今にも崩れそう。それでもシトは「間違いなく解けてます」と言い切った。 「……クロード……ああ、良かった……良かったです……」  辿々しく歩み、そっ。とソファーに座る彼を包み込む様に抱き締めるシルビナの瞳には、涙が浮かんでいる。 「……すまなかった。君の看病があっての今だ。ありがとう」  クロードの弱き身体で、その想いに応えている姿を見たシトは、一つ頷く。 「さて、呪詛の要領は、理解しました。クロードさんには申し訳ないですが、今ので対象法理解出来たので、今よりは、苦痛は少なく解呪出来ます」  ライガとフィーリを見て、どちらかを受けたいか問えば、最初にライガが名乗り出た。  シトは、了解すると準備を開始する最中、リナリーは、ティエラと黄華の傍で呟く。 「……シト君って……本当に英雄なんだって、改めて感じられますね。凄いだけで済ませられない」  瞳に映る少年の行動力と、レボヌールでも不治の病とされていた問題を初めて治療したと思われる光景。自身の人生において、奇跡に立ち会い出来た思えるのが、今の率直な言葉だ。 「シト主は、万物の理に触れる方術師です。望んだ分だけ、あの方は、世界へ干渉出来ます」  対する黄華は、変わらぬ口調で当たり前の言い方だ。 「方術とは、本当に不思議なおチカラです。カヅメ様は、どれ程の人々を救うことが出来ましょうか」 「シト主は、そこまで望みません。手に届く範囲の事をされる。それがあの方」 「確かにそうかもしれないね。シト君は、率先して世界の為に動くより、身近な人の為に動くって感じがする」  ついつい納得して、リナリーが頷く。ティエラと黄華も相槌合わせ頷いていた。  その間に、ライガの呪解を始めるシトであるが、宣言した通り、解呪中、苦痛を伴う声はクロードの時より少なく、比較的負担は少なそうであった。  ライガとフィーリの治療は、無事に終わり…… 「……と、完了です。フィーリさん、気分は、どうですか?」  ソファーに座りつつ、胸元を抑えて苦しむ姿であった、フィーリだが、声をかけられて顔を上げた。 「……皆と同じで実感は無いけど……気分は良いかな」  幼げな顔は、呪詛のせいで痩せているが、何処か恥ずかしげに微笑む。髪色と同じ紫色の瞳が、静に揺れる中、シトも穏やかな表情を浮かべた。
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