311人が本棚に入れています
本棚に追加
距離を考え、どうしても詰め寄るしかない。一直線に突っ込んでも、相手も遠距離で仕掛ける攻撃を持っており、どちからと言えば遠距離で仕掛け、此方を始末したいはず。
「……悩むのは此処までか……」
出血が疲労感を引き出す。呼吸も小刻みでは、これが最後となる。
口にし終えると同時に地面を荒々しく駆け出した。その光景が、敵の表情をにやりとさせ、手を前に翳すと、無数の燃え盛る火玉を繰り出して来たのだ。
闇を染める赤き火に対し、加速を止める事はなく、寧ろ脚力を上げながら、胸元から一枚の青い札を取り出す。それは、自身の切り札と言えるもので、この瞬間まで取っておいて正解だったと心より思う。
「――邪を祓え、浄めの札よッ!」
突き立てた札が効力を発動すれば、それは青い輝きに満たされ、瞬時に向かう火玉を消して行くばかりか、空を飛ぶ悪魔にも影響を与える。翼が急激重みを覚え、地上に引き摺り下ろされるのだ。
「――グッオ!? ば、馬鹿な……この光は……」
謎に包まれ困惑する中、男は勝負を仕掛ける為に一気に詰め寄りながら、札への効力を高める詠唱を唱える。それは、効果覿面となり、地上に完全に降りて苦しむ様に動きを止める。
「――これで終わりにする! うぐっ!?」
手持ちの銃に集中し、もう目先まで来た矢先――激しい衝撃が身体を駆け巡る。それは、敵の仕掛けた黒い刃が腹部を貫いていたのだ。
その痛みは熱を帯びて、少ない身体の自由を奪い始める。このまま勝負は決するかと思われたが、彼は思わぬ行動に出る。手にする札を自身の胸元に押し付けると、歯を食い縛りながら目を閉じた。
「……これが……最後の術だ……もって……け……」
手にした札が燃えると、身体を瞬く間に蒼き火炎で包まれて行く。
「――血迷ったか? しかし、もう何をしようが貴様は終わり――がハッ!?」
喋りを遮るのは、今先程まで遠方に居た男の拳。何が起きたのか理解する前に、強い衝撃が脳内を揺らす。
最初のコメントを投稿しよう!