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「もういい! 開廷してやるからお前はそこで立っていろッ!」
物凄い不機嫌な口調に、何故そうなのかと少し呆れてしまう。普通、閻魔は偉そうにしながらも淡々と事を済ませるイメージがあっただけに、死後の世界でこんな経験させられるとは……そう感じずにはいられない。
そんな閻魔は、片手を翳すと、閻魔帳と呼ばれる学校の先生が使うような日誌を片手に取り出す。大方、昔話のように、あれに生前の記録が記載されているであろう。
ぶつぶつ文句言いたげに、それでも聞こえない程で何かを言いつつ、閻魔帳を開きながら、目を流す。
「……名前は、神爪司斗、年齢は……お前まだ十七歳か? 最近の若い者はどんな育ちをしているのじゃ、まったく」
見た目からすらば、確かに二十代とよく間違いを受けていた。特別困った事もないので、シトはあまり気にしない性分でもある。そんな事を理解出来ない閻魔は、更に口にする。
「……ほう、親は物心付いた時に殺害……なるほど、妖魔に携わる者であったのか。……そして、お前は陰陽道を学び進むか。道理で、妾を見ても驚きをしない訳か」
「……」
「別段、陰陽師であろうが何れは死ぬから気にするな。それに闇堕ちしてないならば、寧ろ、功績は讃える。……して……お前の功績を見て見るか」
大概、妖魔を倒す生涯を送る面々は、極楽浄土へと行く場合が多い。大なり小なりの功績はあれど、人の世界を命を使い護るに徹する行為は、この場で報われるケースが圧倒的なのだ。
閻魔もそのつもりで妖魔との戦歴を確認し始めるが、それは二度見して確認する事になった。
「……」
「……? どうかしたか?」
シトだって気付かない訳ではない。先程まで喋りかけていたのに、急に物静かになったのだ。先程の口調で早く進めて欲しい思いがあるが、赤々色の瞳が疑問に満たされ、視線がシトに注がれた。
「……お前……陰陽師ではないのか?」
「ああ、陰陽術も使うが俺は方術師だ」
「方術を使えていたのか?」
「まあ、方術師だからな。一通りは使えていた」
「いや、それは……お前は仙人ではないだろう?」
「仙人ならば死なないのは、そちらが詳しいんじゃないか?」
「……」
ついつい言葉を止めた閻魔に対し、何か問題があったのかと此方も黙り込む。
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