【春】2.無知のオメガ

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「起きたみたいだよ」  声が聞こえて、身体がびくりと跳ねる。悪いことをした気になって、聖は身を縮こませた。  この声は、トラと呼ばれていた者だったか。と考えているうちに、二人の男が部屋に入った。倉庫と違い、明るい病室ははっきりとその人物を照らし出してくれる。 「時田聖、だな」  聖の名を呼びながら、ずいと近寄るはスーツを着た男。倉庫で会ったリュウだ。  すらりと背が高く、体つきはがっしりとしている。雰囲気で言えば信清に似ているのだが、爽やかというよりは大人の風に吹かれたあくどいものが滲み出た強面だ。髪は耳の後ろまで伸ばし、前髪はきっちりと後ろに流して固めている。瞳は鋭く切れ長だが、右目の下でさりげなく主張する黒子が大人の色気を演出していた。  どっしりと構えつつ、聖を逃がすまいと鋭く睨みつける眼光は、上から押しつぶすような威圧感を持っている。二十代前半、いや後半か。 「俺は金嶋(かねしま) 龍生(りゅうせい)だ。倉庫で会ったのは覚えているな?」  覚えているのだが、堂々とした口振りから感じる大人の風格に怯えてしまい、頷くこともできずに固まっていた。見かねて、もう一人の男――トラが助け船を出す。 「可哀想に。リュウが睨みつけるから怯えちゃって」 「睨んでいるわけじゃない。生まれつきこういう目なだけだ」 「ハジメテの子には優しく接してあげないと、ねえ?」  そう言って、聖に向けてにっこりと、優しく微笑む。
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