【春】2.無知のオメガ

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「聖。お前はこの世界に六種類の性があることを知っているか?」  表情を変えずに冷たさを保ったまま。リュウが聞いた。 「……聞いたことは、あります。保健体育の授業で習いました」 「言ってみろ」 「人間は女性と男性の二つの性があって、体つきが異なります。この性別は細分化され、男女それぞれ三種類にわかれます。その一つがアルファ。特徴として、アルファ女性型は男性器と似た機能を持つ生殖器を持っています」 「正解だよ。次は?」 「最も数の多いベータ。ほとんどの人間はベータとして生まれます」  そこまではスムーズに、聖の口も回った。  だが問題はその後。催促の視線が向けられても、聖は堅く口を閉ざしたまま。  しばし無言の時が流れ、諦めたようにリュウが言った。 「……そこまで、か」  聖が知っているのはアルファ男・女とベータ男・女のみ。あと二つが足りていない。  勉強不足、いや社会経験が浅いからなのか。ともかく無知な自身を責められている気がして、聖は謝った。 「すみません……これ以上は、わからないです」 「つまり、あんたはオメガについては知らないってことだね。どうする、リュウ?」  話を振られたリュウは咳払いをして、近くの丸椅子に腰をおろした。  足を組むその仕草は荒々しく、大人といえばお行儀の良い教師だけだった聖にとって、それは斬新なものだった。 「最後はオメガ。これはアルファやベータよりも数の少ない、稀少な性だ。オメガには二つの特徴がある。一つはさっきも言った、発情することだ」  どくん、と心臓が跳ねた音が聞こえた気がした。 「発情期に入ってしまえば、日常生活は……まあ無理だろう」 「肌に風が当たっただけでも絶頂に近い快感を得られるんだってさ。羨ましいね、オレも味わってみたーい」  聖を襲う症状は彼らが言う発情と一致している。  これが異常なものであることは聖もよくわかっていた。学園の生徒、教師、関係者の誰も、発情期に入ることがない。聖だけ、だったのだ。
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