【春】2.無知のオメガ

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 追い込まれている、部屋がより狭くなった錯覚が聖を包み込む。  どれだけ息苦しくなっても詰め込まれる。コンクリートに漬け込まれて深い海の底に沈んでいく。腹の奥まで冷えきっていて、氷付けにされたように動けないのだ。 「時田聖。お前はオメガであり、被害者だ」  リュウの一言で、ざわついていた思考が水を打ったように静まりかえる。まるでぐちゃぐちゃの脳に垂れた蜘蛛の糸だ。その糸をしっかりと掴み、聖はリュウの顔をまっすぐ見つめて言った。 「僕は……被害者ではないです」  溢れた声に、リュウとトラの目が丸くなった。 「学園の皆は僕を求めただけ。だから悪いことはしていないんです」  生徒や教師、無理矢理に聖を犯した者たちも、共通しているものがある。彼らは聖を求めたのだ。聖はそれを受け止めただけ。  聖の瞳はしっかりと芯が残っている。自身の考えに間違いはないと信じているのだ。
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