【春】2.無知のオメガ

11/26
前へ
/270ページ
次へ
 聖は悲しげに顔を歪ませた後、腹を抱えて笑うトラを止めるべく、結論を出した。 「とにかく僕は被害者じゃないです。だから学園に帰してください」 「駄目だ」  すぐさまリュウが遮った。 「知識のないお前を野放しにしておけない。オメガ保護特区へ移送する」 「僕の居場所は学園にあるんです。みんなが僕を必要としてくれるんです」 「それはお前がオメガだからだ。戻ったとしても慰み者として扱われるだけだぞ」 「構いません。僕を求めてくれるのは学園だけなんです。僕を必要としてくれる人たちのところに、帰ります」  一歩も引かず、正面からぶつかり合った後、二人とも黙り込んだ。  特にリュウは、じいとまっすぐに聖を見つめていた。その視線は射抜かれそうなほど強く、奥底を見破ろうとする鋭いものだ。見定められているのが悔しく聖も睨み返すが、リュウの顔は分厚い皮で覆ったのかと思うほど微動だにせず、真意は読みとれない。
/270ページ

最初のコメントを投稿しよう!

1583人が本棚に入れています
本棚に追加