【春】2.無知のオメガ

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 視線がぶつかり合い、見えない火花が飛び散っているようだった。目眩がするほどの重苦しさの中、睨みあっていた二人だったが、口火を切ったのはリュウだった。 「わかった、お前を学園に帰そう。だが二つほど条件を出す。それが飲めないのなら、保護特区へ強制移送するぞ」  学園への道が開けたことで表情を綻ばせた聖の前に、二本。リュウの指が突き立てられた。 「第一の条件は、発情を抑えることだ。お前のフェロモンはアルファだけでなくベータも巻き込む強力なものだ。発情期に入り、フェロモン垂れ流し状態のお前が外に出たら、どんな事件に巻き込まれるかわからない。オメガは繁殖能力の高さから希少価値があり、裏取引や犯罪に使われることが多いからな」 「オメガ・オークション、人身売買ってやつとかね。繁殖や性処理の道具として好む愛好家たちに、オメガは高く売れるんだ」  全寮制の学園にいたため、聖は外のことに疎い。人身売買が行われているなんて想像もつかず、彼らが話しているのはここではない他国の出来事ではないかと思ってしまうのだ。 「つまり発情を抑えるのはお前の身を守るためでもある。抑制方法は二種あるが……お前の場合は薬を使うしかない」  リュウが言うと、トラは懐から薬を取り出した。
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