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手帳に名前を書き込むということは契約が完了したということ。目的を達成した男子生徒が去ると、入れ替わりに別の生徒がやってきた。
「……また、増えたのか」
「うん。僕のことが欲しいんだって」
「俺は止めないけど。ま、ほどほどにしておけよ」
そう言って、聖の前の席に座る。事情を知っているこの男子生徒は、制服に『時田』と名札をつけていた。
聖と同じ名字だが兄弟ではない。時田 信清は聖にとって従弟にあたる。名字、年齢は同じだが、外見は別だ。聖が儚さを持ち合わせたビスクドールであるならば、信清は汗や日焼けの似合う今時の男子だ。
「……薬、飲むの忘れないようにな」
「うん。わかってるよ」
「じゃあ安心だ――帰ろうか。今日の夕飯はカレーだってさ」
手帳や筆記用具を鞄に詰め込み、帰り支度を終えた聖に合わせて、信清も立ち上がる。
この学園は全寮制のため、帰るといいながら学園の敷地から出ることはない。ただ、寮に戻るだけだ。
聖は寮のルームメイトである信清を見上げて、ゆっくり頷いた。
校舎から寮までの短い移動時間は、信清と共に行動する。去年の夏から始まった護衛だ。
この護衛は、聖や信清が言いだしたわけでもなく、必然とそうなってしまったものだった。つまり、聖は護衛されなければいけない理由がある。
「俺さ、聖がしてることは止めないよ」
夕暮れの学園敷地を歩きながら、春の風にかき消されそうなほど小さく、信清が呟いた。
「……それを、聖も望んでいるんだろ?」
隣を歩く聖はしっかりと聞いていて、夕日に目を細めながらゆっくり頷く。
「うん。求められているから」
聖が返すと信清は黙り込んでしまった。
その行動が気になって、信清を覗き込む。
運動の成績はクラスで一番、運動部に所属している信清は、春というよりは夏が似合う凛々しい顔つきをしている。
顔から首、鎖骨、肩――逞しい腕まで視線を落としたところで、聖は喉を押さえた。
信清の身体に反応し、腹部からずくりとこみ上げる重たいもの。それは熱を放っていて、身体中が痒くなる。制服を着ていることが煩わしくなり、脱ぎ捨てて外の風に晒してしまいたいと思ってしまうほど。
明日にでも、やってくるのだろう。迫る大波の音が心地よく、聖は口角をあげた。
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