【春】2.無知のオメガ

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***  布団に潜り込んでいたが、眠気はやってこない。それどころか、無理に押さえ込まれた発情期の残り香が、孤独を見抜いて暴れ出す。  また、注射の跡が、痛んだ。  監視役となったリュウとトラはいない。信清も教室に向かってしまい、残された一人の部屋は妙に広く、開放感があったのだ。  自分しかいないのだからと言い訳をして欲に屈し、布団の中に手を入れる。そして刺激を求めた寂しい自分自身に触れた。  発情期は必ず誰かと共にいて、発情期以外でも他の者に抱かれて満たされていたのだ。初めて発情した時以来の自慰である。  硬くなりかけたそれを優しく握って上下に動かせば、薄い皮膚の奥で血液が煮立つのがわかる。  隆起した血管をなぞるように手でしごき、男にしてはやや小ぶりなそれが、摩擦による刺激で反応して身を震わせた。 「っふ……もっと……」  それでも――足りない。  自慰で得られる刺激は、他人に弄ばれた時の快楽と異なる。突如雷が落ちるような予測不可なものではない。  どんな風に弄られ、どんな風に擦られたのか。思い返してみるも、その時の興奮を生み出すことはできない。もう少しのところだというのに、熱の逃がし場所が見つからないのだ。  頭が、おかしくなりそうだった。目の前に望むものがあるのに、手が届かない焦れったさが思考を支配していく。  熱に浮かされ、残ったのはシンプルな感情。求められたい。聖を、身体を。激しく求められれば、きっと満たされるはずだから。  その答えを見つけた時、聖は諦めて手を止めた。一人では達することのできない、なんて寂しい身体なのだろう。  その瞳を濡らしたのが、抱え込んだままの熱か、それとも満たされない虚しさによるものか。結局わからないまま、聖は眠りについた。
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