【春】4.発情期抑制剤と体育祭

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「……リュウさんと、トラさんだ」  ぽつり、と漏れたその名を聞いたのは近くにいる信清だけで、他の生徒たちには聞こえていない。 「知り合いか?」 「うん。前に話した保護協会の人たちだよ」  聞くなり信清は「あの人たちか」と言って、再び視線を窓に移した。  リュウは以前と変わらず、スーツをきっちりと着こなしている。  その隣にはトラもいた。トラもスーツを着ていたが、リュウに比べれば綺麗に着ているとは言い難い。シャツやネクタイが緩んでいるのが遠くからでもわかった。  教師たちに仰々しく出迎えられ、それが学園で見かけないスーツを着た男たちとなれば生徒たちが騒ぐのも当然だ。  その中で、聖だけは違っていた。川底に張り付いた泥を無理矢理かき混ぜるように、日常に放り込まれた波紋。  リュウとトラがやってきた理由は、聖なのだろうか。浮かぶ疑問に追いつめられて、頭の中がごちゃごちゃになっていた。 「……保護協会ってさ、」  それは信清も、なのかもしれない。喋り出した信清を見やれば、彼も聖と同じく、表情に影が差していた。 「アルファの人だらけ、なんだろ?」  この世に存在する性。その中でも、全ての性のトップに君臨するのがアルファだ。簡単に言えば支配者、エリートである。  エリートと言われれば確かに、教師たちに出迎えられ堂々としている二人にその名はよく似合うが、本当にアルファなのかはわからない。彼らから直接聞いたわけでもないのだ。
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