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ゆらり。太陽が沈んでしまったのかと思うほど、大きな影が二つ。クラスメイトの背後から現れた。
「お前……」
影を見上げ、影の正体を知り、降り注ぐ軽蔑の眼差しを受けてようやく。聖はこの状況に気付いた。
二人がいる。リュウとトラがいるのだ。
心臓を鷲掴みにされたように、固まって動けない。発情期に入ったばかりの身体はまだ正気を残していて、この状況が恐ろしいものだと認識している。
リュウは、怯え竦んでいるクラスメイトを睨みつけると、普段よりも低く、怒りを含んだ声で言った。
「失せろ」
「ひっ……」
誰が見ても、リュウとトラが上位のものだとわかる。年齢差だけではない、纏っている雰囲気の格が違う。
彼らに敵わないと悟ったクラスメイトは後ずさりをし、そのまま走り去った。
聖と、聖を忌々しく睨みつけるリュウとトラだけが残った。
「あんた、発情期に入ったよね? 薬、飲んでなかったんだ」
「ご……ごめんなさ……」
一歩、リュウが歩み寄る。
まさか殴られるのか。両目を強く瞑って身を固くするも、リュウの手は聖ではなく、体育倉庫の扉を掴んでいた。
鍵は、開いている。
リュウが扉が開くと、中に封じられていた埃とカビの匂いが広がり――聖の身体がふわりと浮いた。
「なっ、何を……」
「黙ってろ」
腰と膝裏に手を添えられ、リュウに抱えられているのだ。それは聖を気遣う優しいものではなく、道具を運ぶための乱雑なものだった。
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