●【春】5.嘘の代償

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 ゆらり。太陽が沈んでしまったのかと思うほど、大きな影が二つ。クラスメイトの背後から現れた。 「お前……」  影を見上げ、影の正体を知り、降り注ぐ軽蔑の眼差しを受けてようやく。聖はこの状況に気付いた。  二人がいる。リュウとトラがいるのだ。  心臓を鷲掴みにされたように、固まって動けない。発情期に入ったばかりの身体はまだ正気を残していて、この状況が恐ろしいものだと認識している。  リュウは、怯え竦んでいるクラスメイトを睨みつけると、普段よりも低く、怒りを含んだ声で言った。 「失せろ」 「ひっ……」  誰が見ても、リュウとトラが上位のものだとわかる。年齢差だけではない、纏っている雰囲気の格が違う。  彼らに敵わないと悟ったクラスメイトは後ずさりをし、そのまま走り去った。  聖と、聖を忌々しく睨みつけるリュウとトラだけが残った。 「あんた、発情期に入ったよね? 薬、飲んでなかったんだ」 「ご……ごめんなさ……」  一歩、リュウが歩み寄る。  まさか殴られるのか。両目を強く瞑って身を固くするも、リュウの手は聖ではなく、体育倉庫の扉を掴んでいた。  鍵は、開いている。  リュウが扉が開くと、中に封じられていた埃とカビの匂いが広がり――聖の身体がふわりと浮いた。 「なっ、何を……」 「黙ってろ」  腰と膝裏に手を添えられ、リュウに抱えられているのだ。それは聖を気遣う優しいものではなく、道具を運ぶための乱雑なものだった。
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