●【春】5.嘘の代償

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 その間に、後孔に差し込まれた指が蠢く。  しばらく使われていなかったため固く閉ざされていて、異物を押し返そうとリュウの指を締め上げている。  その奥に、あと少し先に、擦ってほしい場所があるというのに。その部分はかすめるのみで届かずないのがもどかしい。 「時田。いいことを教えてやる。お前が相手にしてきた学園の奴らはベータ。どこにでもいる普通の存在。獣にすら慣れない半端者だ」  これから先の行為に備え、無理矢理押し広げるべく蠢く指先は、快楽よりも痛みを生む。  リュウがどんな話をしようとも、髪を掴まれて口いっぱいにトラの肉欲を咥えこんでいる聖は答えることができない。  ふうふう、と荒い呼吸音が虚しく響いても、リュウもトラも行為を止めようとはしなかった。 「俺たちはアルファだ。ベータとは違う、獣の衝動を秘めている」  ずぶ、と水中から起きあがるように、リュウの指が後孔から抜けていく。  合図だ。何人とも肉体を繋ぎ合わせたからこそわかる、予感。  次に襲いかかるものはとても大きく、身体が千切れてしまいそうなほど切ないもので――わかるからこそ、悔しくなる。  自分は道具として扱われているのだ。勃ったままの自身が寂しく、刺激を求めてうち震えている。これでは、ギブアンドテイクではない、一方的な性処理。 「これがアルファのセックスだ」  押し当てられたものは指とは比べものにならない質量を持ち、異常な熱を持つリュウの男性器だ。先端が当たるだけでも、その凶暴さが伝わってくる。まるでアルファが持つ性の衝動を具現化したように。  この先に畏怖し、息を飲んだ瞬間――苦痛が、埋め込まれた。
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