●【春】5.嘘の代償

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「ぅ、あ、あああ――――!」  労りなど微塵もない。後孔から全身に向けて駆けていく苦痛。聖は背を丸め、言葉にならない声をあげてそれに耐える。  熱い。内臓から焦げていく。煮え湯を流し込まれたように泡立ち、粘膜がみちみちと異物に張り付く。前戯も潤滑油もない挿入によって、異物が棘だらけの木杭に思えた。 「ひぅ、痛っ……もう、やめ、」 「おいおい、勘弁してくれ。こっちはまだ、挿れただけなんだ」  冷たい声が聞こえると共に、異物がずるりと引き抜かれる。  完全に抜けてしまう直前――ずしり、と重たい衝撃が奥を叩いた。遮る内壁は圧しられ、粘膜の擦れた痛みに唇を噛む。ごめんなさいと浮かぶ叫びは声にすることもできなかった。  そして何度も。ただ快楽とはほど遠い苦痛の輸送を繰り返す。腰が打ち付けられるたびに、噛んだ唇の隙間から息が漏れた。 「ふ……あ……っ、」 「ちょっと! オレも待っているんだから、早くしてよ」 「わかってる」  いつの間にか、聖の頭部は解放されていた。すっかり空いた口に再び、トラが自身を押しつける。 「こっちも忘れないでね――ちゃんと舐めないと、あんたが辛いだけだよ」 「――っ!」  一人ではない。聖の肌に触れているのはリュウだけではないのだ。  リュウと同じく、アルファの優位性を示し野蛮に猛る肉欲も、いずれ――この苦痛を減らすためなら、とおそるおそる舌を伸ばす。 「ああ……すごく上手。そう、しっかり濡らして」  舌全体を使って唾液をたっぷり絡ませれば、恍惚とした吐息が聞こえた。  今までに味わったことのない、苦しみ。道具として一方的に扱われるだけの行為は、ベータとのセックスになかった。  上から下から、別々に動き、貫かれる。  これが獣の、アルファのセックスであるならば――こんなもの知りたくなかった。
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