●【春】5.嘘の代償

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「助かった。お前が薬を打ってくれなかったら、もっと酷い事になっていたな」  リュウにも抑制剤を打ち、それから聖にも発情期抑制剤を打った。リュウとトラは薬が効いたが、問題は聖だ。彼に使用したものは、四月と同じ緊急用のものだ。発情期中に使用できる唯一の抑制剤だが、これは副作用がある。 「……効くのかどうか、アヤシイんだよね」  前回に続き今回も。何度も使用すると効果が弱まってしまう。そして身体にかかる負担も大きい。前回はそこまで影響が出なかったが、今回もそうなるとは限らない。  同じことをリュウも考えたのだろう。マットの上で静かに眠る聖を一瞥した後、低い声で言った。 「オメガ保護特区、か」 「送るの?」 「…………」  迷っているのだ。リュウのそんな姿を見るのは珍しい。普段ならば時間をかけず冷徹な判断をするというのに、聖への罪悪感が判断力を鈍らせているのかもしれない。
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