●【春】5.嘘の代償

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 思い出す。  黒々とし、無数の星を浮かべたような聖の瞳を。  それは純黒の鏡だ。しかし何も映さず、覗きこんでも何も返ってこない、果てのない宇宙や底なし沼に似た無機質。  色を教えたら――彼が彩色を手に入れたいと願ったら、あの瞳はどのように煌めいて誘うのだろう。 「そうだね……不思議な子だ」  求められることばかりで、自ら求めようとしない。求めることが罪とばかりに諦めてしまった。  与えてばかりの聖は、甘い蜜があれば無償で身を委ねる蝶だ。狂わせ、惑わせる。何をされてもひらりひらりと舞って、罪色の羽を揺らめかせる。 「……さあ。聖ちゃんを、早く病院に連れてかないと」  そして部下に連絡を取ろうとした時、リュウがようやく動いた。 「待て」 「なに? やっと手伝ってくれる気になったのかな」 「病院には――連れていけない」
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