【春】3.それぞれの思惑

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【春】3.それぞれの思惑

 聖が学園に戻って数日後のことである。  オフィスビルの最上階。幹部や秘書といった限られた人しか入室できないリュウ専用の部屋に、茶封筒を手にしたトラがやってきた。 「リュウ。面白いデータが入ったよ」  ニタニタと笑みを浮かべるトラは、終日内勤の予定に気を抜いているのか、胸元のがっぽり開いたUネックのシャツを着て水色のカーディガンを羽織っている。パンツも爽やかなオフホワイトと、ここがオフィス街だと思えないラフな格好をしていた。  その姿を見るなり眉をひそめたリュウだったが、何も言わなかった。トラの奇抜な服装に慣れていたからだ。  ここにトラよりも立場が上の人間がいたのなら注意の一つでもしたのかもしれない。だが、そんな人間がいるとしたら、それはカネシマグループの会長である二人の父だけだ。その父でさえ名前を置いているだけで、実際は隠居生活である。つまり誰も、トラに注意できるものはいないのだ。 「俺は忙しい。くだらない話は後にしろ」  一瞥した後、仕事に戻る。デスクに貯まった書類の山を睨みつけ、頭からトラを追い払った。     
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