【春】4.発情期抑制剤と体育祭

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【春】4.発情期抑制剤と体育祭

 禁欲生活だなんていつ以来だろうか、と考えたくなる。カレンダーを見れば、捲った枚数の数だけ、清らかな身体を誉められている気がした。 ***  それは六月に入ってすぐ。雨の季節が始まるのだろうと、日々増していく湿度に嫌気が指していた頃である。  午前の授業が終わり、昼食を取るべく食堂へ向かう途中で生徒たちがざわついていた。 「見ろよ、先生たちが並んでるぞ」 「理事会の人かな? あんまり見ない顔だ」  全寮制の羽流学園は閉鎖的な場所だ。学園の外に出ることは珍しく、逆に外の人間を迎えることも珍しい。若い女性が来ようものなら、生徒たちはお祭りのように騒ぐこともある。  職員玄関を見下ろせる廊下の窓に集まって騒ぐ生徒たちを遠くから眺めていると、隣を歩いていた信清がぽつりと呟いた。 「お客様がきているのかな。今日は一段と騒がしいね」  そして「俺たちも見てみるか」と聖の手を引いた。来客に対してそこまで興味はなかったが、引っ張られるままに外の様子を覗き込む。  見下ろすは一階の職員玄関前。そこには学年主任や副理事を含めて何人もの教師や理事会職員が並んでいた。皆、玄関前に一列に並び、来客を出迎えている。  彼らに出迎えられ、颯爽と歩くのは二人の男性。それは聖にとって覚えのある姿だった。
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