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●【春】5.嘘の代償
保健室を目指して体育倉庫の壁伝いに歩いたものの、燦々と降り注ぐ太陽の光に屈し、体育倉庫の壁にもたれかかって座り込んだ。
テントから体育倉庫までそこまで距離はないというのに身体は疲れていた。汗ばんだ肌は焼けそうな温度を持ち、体が震える。
強烈な喉の乾きにペットボトルの水を一口含んでみれば、舌は敏感で水の感触も生々しく伝わった。
これは熱中症なのだろうか――熱中症にしては異常すぎる身体の状態に嫌な想像が浮かぶ。
予定よりも早く、発情期が来たのかもしれない。今までにも何度か、予定時期からずれることがあった。襲いかかるのは、発情期独特の頭が侵されていく感覚だ。
背後からクラスメイトの声がした。
「……時田」
聖の名を呼ぶ声に、別のものが含まれている。それは自らの状態を報せる艶めかしいものだ。
「な、に……?」
「お、追いかけてきてごめん! で、でもその……なんか今日のお前見てたら、我慢できなくて……」
確信する。高揚したその頬は、聖に反応していることを示している。予定よりも早く発情期に入ってしまったのだ。
発情期に入ってしまえば日常生活も困難になるほど身体が敏感になる。今はまだ抑えられているが、時間が経てば体育祭に参加するどころではないだろう。
散々溜め込んできた熱が、ようやく放たれようと暴れている。目の前にいるのは、何度もセックスをしたクラスメイトだ。
彼と、してしまえばいいのではないか。悪魔に唆され、聖はゆっくりと頷く。
「……うん、」
しよう、と言い掛けた時だった。
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