プロローグ

3/19
前へ
/22ページ
次へ
フェリルに会ったのは実のところ二月ぶりだ。 確か魔王討伐の一周年の前夜祭。 国を挙げて行われた祝賀の宴は三日三晩続いていたらしいが俺は初日に軽く顔を出して知り合いに挨拶だけして帰った。 それだって魔王を討伐した勇者パーティの一人なのだからと国のお偉いさんにしつこく催促されまくった挙げ句元仲間の一人から少しだけでも、と頭を下げられたからだ。 滞在時間は僅かに30分ほど。 フェリルの顔を見たのはその内の数分といったところ。 何故その短時間で正確な体重の増加値とベルトの位置がわかるのか。 (と、いうか何故朝から他人の家で勝手にシャワーを浴びてるんだ?) カギはちゃんと掛かっていたはずなのにどうやって入ってきたのやら。 相変わらずこの少女はよくわからない。 すでに出会ってから10年以上。 魔王討伐の旅に出ていた間は四六時中共にいたというのに、俺はフェリルの頭の中がまったくもって読めない。 (……まあ、人間じゃないし。仕方ないのかな?) フェリルは人ではない。 今は人間の姿をしているだけ、本性は竜である。 竜ーーつまりドラゴン。 巨大な蜥蜴に似た姿で背に羽根が生えている。 しかもフェリルは竜の中でも最上種である神竜。 俺みたいなダメ人間にその心理が理解できようはずがない。 (うん、そういうことだ) ところでそろそろ意識が朦朧としてきたのだが。 (いつまでやってるんだろう) 俺の息が完全に止まるまで? それは少々困るのだが。 (まだごろごろしたりないんだよな) 一年と二月では足りない。 後できれば五年、いや十年は自堕落に過ごしたい。 七歳から十七の今まで、散々苦労して、散々修行にまみれ、散々働いてきたのだから。 そのくらいは許されてもいいと思うのだ。 だって一応俺って英雄の一人なのだし。
/22ページ

最初のコメントを投稿しよう!

33人が本棚に入れています
本棚に追加