嫌いなアイツ

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無事、ベッドの上に辿り着き、仰向けに寝転がって、大きく息を吐く。ふと目を閉じると、瞼の裏で小説の主人公が未だレベルの上げ方について悩んでいた。 こんな時、空人はいつも不思議に思う。自分の頭の中の作り事であることは確かなのに、まるで実在するかのように主人公たちは脳内で勝手に動き出す。 今回の悩みは何か糸口を見つけ、解決に向かうのか。それとも彼はそれを見つけられず、自暴自棄になったりするのだろうか。それは物語を構成していく立場の空人にもわからない。それはきっと明日の調子とか、気分に大いに影響されるものなんだろう。 プロになったらこんな書き方は許されないのだろうか。空人はふと自分の将来に思いをはせてみる。 小説を書くのは好きだ。このまま大学の文学部に進み、そういう類の勉強をするのだと割と本気で考えてもいる。 けれど、プロになってしまったら、もう今のような楽しい気持ちで書くことは出来なくなるかもしれない。趣味を仕事にするのはつらいと言う人がいるように、自分も小説を嫌いになってしまうだろうか。 ため息が大きく部屋に響く。そんなに大げさに吐いたつもりはないが、深夜2時の部屋にはよく響く。 近い将来、いや、もう再来年の話なのだが、必ず進路と言う道の前に辿り着く。何通りにも別れた道の中から、空人は自分の行くべき道を見つけ、そしてそこを進むと言う決断が出来るだろうか。 空人は大きく首を横に振った。 まだ1年以上ある。今から慌てる必要はない。その時になれば小説に対する思いも今よりは何かしらいい方に変わっているはずだ。 言いようのない不安をどこかへ押しやるように、空人はぎゅっと目を閉じた。
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