嫌いなアイツ

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鞄のチャックを閉め、机を離れる。 チャックをほんの数センチだけ開けてしまう癖は、幼い頃、ミニバスをやっていた頃に付いたものだ。昼食に持たされる弁当の匂いがこもってしまうのが嫌で開けていたのだが、そんなことを露ほども知らない親からはいつもだらしないと怒られた。 高校1年生が終わる今、その癖はまだ直っていない。もはやここまで直らなければ一生の付き合いになるだろうなと空人は心を決めている。 机から離れようとした時、遠くの方で明るい笑い声がした。すべてのマイナスをプラスに変えてしまうような無邪気な笑い声。ふと振り返り、背後の窓に近付いてみる。 夕日が校庭を暖かい色に染めていた。 校舎と横並びに置かれたサッカーゴールに向かってビブスを付けた数人の男子生徒が真剣な様子で走っていく。そこからさらに校舎に寄った、まさに図書室の真下で、制服姿の男子生徒数人が和気あいあいとボールを蹴って遊んでいた。ビブスもなく、ゴールもなく、蹴っているボールに至ってはテニス部が回収し忘れたテニスボールだったが、それでも彼らは心から楽しそうに握りこぶし大のボールを追いかけ回していた。 校庭で繰り広げられる光景に空人のこれまでの人生が凝縮されているようだった。 空人の場合はサッカーではなくバスケだったが、あんな風に真剣に練習に打ち込み、帰りは仲間とふざけ合うのがあの頃の空人の日常だった。
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