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「うわぁー」
テニスボールでサッカーをしていた数人の生徒がそんな声と共に大げさに地面にしゃがみ込んだ。
頭を抱えたり、地面を叩いたりして、「またおごり決定かよー」なんて悔しそうな声も聞こえる。
座り込んだ生徒たちの中心で、高山海斗(たかやま かいと)は爽やかな笑みを浮かべていた。気崩した制服に、少しやんちゃな雰囲気。これまでの人生で影を歩いたことなど一度もないと言わんばかりの輝かしい笑顔。
空人はそんな高山の笑顔から逃げるように、窓から離れた。特別何か理由があるわけではないが、奴のことはどうも苦手だ。人の好き嫌いが少ない空人にとっては珍しいことだが、どうにも苦手意識が消えない。
鞄を手にして、最終下校時刻の放送が流れ続ける図書室を出る。廊下が静まり返っているせいで、あの明るい笑い声がここまで響いているような気がする。少しだけ胸に起こった痛みを無視し、空人は誰もいない廊下を靴箱へと向かう。
校門を出ると、まぶしいくらいの夕日がまるで待ち構えていたかのように空人を包み込んだ。
思えば明日からもう春休みだ。やりたいことはたくさんある。図書館で本も読み漁りたいし、その前に買いだめしてあった分も読んでしまいたい。考えただけで楽しみな気持ちになるのに、手放しに喜べないのはどうしてだろう。
センチメンタルな考えに浸る空人の背中を、夕日がぼんやりと照らしていた。
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