嫌いなアイツ

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ふと時計を見ると、丁度深夜2時を回ったところだった。もう3時間近く自分の描く小説の世界にいたことになる。 ゆっくりと息を吐き、画面を見つめる。 画面の中では5人が次の大会に向けて、策を練っているところだった。最初の方は負けなしだった彼らも、この頃は大人のレベルに勝つことが出来ず、自分たちのおごりを反省し、それぞれ新たな努力を始めたところだった。 練習後の主人公が無邪気な笑顔で仲間に手を振る。仲間たちもそれに答えて、手を振り返す。歩き出した主人公の顔から笑みが消える。じわじわと大人のレベルに近付いていく他のメンバーに比べ、自分が足りていないことをわかっている。けれど、どうすればレベルがあげられるのかその方法がわからない。 頭を抱える主人公を描いて、空人は手を止めた。 小学1年の時のミニバスからスタートし、中学のバスケ部まで経験はそれなりにある。けれど、腕と言えば、ごく一般的な男子中学生に毛の生えたようなもので、周りに強い奴がいないなんて人間の苦悩はわからない。想像力でカバーできることは出来るのかもしれないが、やはりそこはリアリティに欠けてしまうような気がする。 続きはまた明日にしよう。煮詰まった状態で引き下がらなければ、そのまま黒く焦げ付いてしまう。 データの保存をし、シャットダウンのボタンを選ぶ。パソコンを閉じる音がやけに大きく部屋に響いた。深夜と言うのは物音の一つ一つがやたらと存在感を表して来る。 自分の歩く足音で1階で眠る両親を起こさぬよう、空人はそろりと自分のベッドの上に移動した。
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