『なむけすこ様』

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 東北地方のとある山村、今は大きな事故で立ち入り禁止になっている地域での話をまとめさせていただく。 『なむけすこ様』という土着信仰。村内の霊験あらたかな小山の土を掘る。その土は鮮血のような赤と墨のような黒。土の割には粘りけが無く、練る為に相当の力が必要である為、家長がそれを行うのが通例であった。粘土は高さ20センチ程の卵型を形成し、小さな注連縄を巻いたモノを祭る。見た目は禍々しい赤と黒の斑の卵ではあるが、どこか神聖なものを感じる。 『なむけすこ様』は、風呂場の浴槽の傍に置かれる事が多い。置かれた風呂の湯は、微かに光を帯び、体の芯まで温まる。肩こり、神経痛はもとより、精神的疲労、気管支炎、皮膚疾患、がん、不妊症等々、あらゆる病に効果があると言われている。現に村人の平均寿命は東北でありながら沖縄をも凌ぎ、日本屈指の長寿村として、話題になった事もあった。  だが、注目を浴びたのは、ほんの一時期だけで、にわかの観光客も半年足らずで消え失せた。噂でしかなく、事実確認はされていない情報ではあるが、こんな事があったそうだ。村の温泉に浸かった客が、体調を崩した、抜け毛が増えた、病が進行した、などと言うマイナス要素の情報が実しやかに流布された。その結果、村は元の閑散とした集落に戻り、以前の平和な状態に戻った。  役場の人間は落胆していたが、そもそも村人は注目を望んでおらず、反対を押し切った役場が無理やり観光化しようとした結果である。
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