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電話をかけた相手は、菜乃ちゃんだった。
「ごめん、菜乃ちゃん。今、近くに来てて…少しだけ会ってもらえないかな?」
涙まじりの声で訊ねると、菜乃ちゃんは少し慌てて、
「うちにおいで!」
と、言ってくれた。
目に溜まる涙を零さないように、我慢して我慢して。一歩ずつ前へ進んでいると、
「はぁ、はぁ、朱里ちゃーん!」
菜乃ちゃんが走って迎えに来てくれた。その姿に涙腺が崩壊して、次から次へと涙が流れ出て、
(ああ…やっぱり好きだなぁ。)
なんて思う。それが、愛情なのか友情なのかは分からないけれど。
「大丈夫?電話、涙声だったから。女の子が泣きながら歩いてたら危ないと思って。」
「うん。…我慢、してた。有り難う、菜乃ちゃん。」
走るのが、苦手な女の子。私がなりたかった女の子。私じゃない、別の人の恋人。それでも、どうしても、まだこんなにも愛おしい。
菜乃ちゃんの家に着くと、そのまま菜乃ちゃんの部屋へ通された。そして電話するまでの経緯を泣きながら説明した。
「そっか…引っ越すこと、知らなかったんだね。…朱里ちゃんにとってさ、たーくんはどんな人?」
「馬鹿。」
「他には?」
「…優しい。私が泣き止むまで、傍にいてくれる人。私の愚痴を、聞いてくれる人。私の我が儘を、怒らない人。」
「朱里ちゃんにとって、たーくんはもう大事な人なんだね。」
「え?」
「悩みや愚痴を遠慮なく言えるのって、特定の大事な誰かだと思うよ。」
「うん、そうだね。」
「私もね、たーくんのお引越しはやっぱり寂しいんだ。だって、十五年?一緒にいたから。…でも、私たち幼馴染みが感じてる“寂しい”は、朱里ちゃんのとは違う気がするな。」
「どうして?」
「上手く言えないけど。…朱里ちゃんは。…私から見たら、朱里ちゃんはたーくんのこと、好きなのかな?って思うよ。」
「ええっ!?確かに大事だけど…それは認めるけど。…でも、世良くんを愛しいって思ったことは一度もないよ?」
「じゃあきっと、まだ心の準備ができてないんじゃないかな?」
「心の準備…。」
菜乃ちゃんは、お菓子を口に運ぶ。
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