君のせい。

6/11
47人が本棚に入れています
本棚に追加
/32ページ
電話をかけた相手は、菜乃ちゃんだった。 「ごめん、菜乃ちゃん。今、近くに来てて…少しだけ会ってもらえないかな?」 涙まじりの声で訊ねると、菜乃ちゃんは少し慌てて、 「うちにおいで!」 と、言ってくれた。 目に溜まる涙を零さないように、我慢して我慢して。一歩ずつ前へ進んでいると、 「はぁ、はぁ、朱里ちゃーん!」 菜乃ちゃんが走って迎えに来てくれた。その姿に涙腺が崩壊して、次から次へと涙が流れ出て、 (ああ…やっぱり好きだなぁ。) なんて思う。それが、愛情なのか友情なのかは分からないけれど。 「大丈夫?電話、涙声だったから。女の子が泣きながら歩いてたら危ないと思って。」 「うん。…我慢、してた。有り難う、菜乃ちゃん。」 走るのが、苦手な女の子。私がなりたかった女の子。私じゃない、別の人の恋人。それでも、どうしても、まだこんなにも愛おしい。 菜乃ちゃんの家に着くと、そのまま菜乃ちゃんの部屋へ通された。そして電話するまでの経緯を泣きながら説明した。 「そっか…引っ越すこと、知らなかったんだね。…朱里ちゃんにとってさ、たーくんはどんな人?」 「馬鹿。」 「他には?」 「…優しい。私が泣き止むまで、傍にいてくれる人。私の愚痴を、聞いてくれる人。私の我が儘を、怒らない人。」 「朱里ちゃんにとって、たーくんはもう大事な人なんだね。」 「え?」 「悩みや愚痴を遠慮なく言えるのって、特定の大事な誰かだと思うよ。」 「うん、そうだね。」 「私もね、たーくんのお引越しはやっぱり寂しいんだ。だって、十五年?一緒にいたから。…でも、私たち幼馴染みが感じてる“寂しい”は、朱里ちゃんのとは違う気がするな。」 「どうして?」 「上手く言えないけど。…朱里ちゃんは。…私から見たら、朱里ちゃんはたーくんのこと、好きなのかな?って思うよ。」 「ええっ!?確かに大事だけど…それは認めるけど。…でも、世良くんを愛しいって思ったことは一度もないよ?」 「じゃあきっと、まだ心の準備ができてないんじゃないかな?」 「心の準備…。」 菜乃ちゃんは、お菓子を口に運ぶ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!