君のせい。

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空がオレンジ色になる頃、私たちは合流した。 「悪い、遅れた。」 「五分程度だよ。」 世良くんは走ってやって来た。 「てか、何で神社?」 「近所で人気のない所が他に思いつかなくて。」 空白の時間が流れる。 「あの、…大丈夫だったの?」 「何が?」 「お店。コップでも倒したんでしょ?」 「ああ、バレてたんだ。」 恥ずかしそうに、世良くんは無邪気に笑う。 そしてまた、二人とも黙り込むのだ。 瞼を閉じると、菜乃ちゃんの微笑が浮かんだ。浮かんで、そして消えた。 「馬鹿っ!」 「は?」 「何で引っ越すこと、もっと早く教えてくれなかったの?」 「何でって…なんとなく、言いにくくて…。」 「ムカツク!」 「え?」 「私は、教えて欲しかった!」 「何で?だって…橘さんは、俺が橘さんを想っているように、俺のこと想ってないでしょ?」 少し言いづらそうに、か細い声で世良くんは話す。 「それでも!大事なんだもん!世良くんのこと!」 「!」 ああ、ほらまた。涙が溢れてきた。 「正直、やっぱり私はまだ菜乃ちゃんが愛しいよ。世良くんのこと、そういう風には想えない。」 「………。」 「でも私、世良くんの親友になりたい。」 「………。」 「図々しいけど、今はまだ世良くんと付き合うとか、そう言うの考えられない。…でも!世良くんが近くにいてくれないのは嫌なの!引っ越しちゃうの、寂しいよ!」 いつだっただろう。ああ、そうだ。忘れもしない文化祭の時だ。あの日のように、私はまた彼の前で泣く。 大粒の涙は止まらなくて、無防備に口を大きく開けて、子供のようにわんわん泣いた。 そして文化祭(あの日)は、ただ隣で座っているだけだった彼が、今日は私を優しく抱きしめる。 それがあまりにも心地よくて暖かいものだから、ますます涙は溢れて、止まらなくなった。
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