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オレンジ色だった空が、藍色に変わっていく。
「う~…ック、ヒック!」
「落ち着いた?」
「落ち着くか!」
「ハハッ、橘さん本当…」
「何よ。」
「キャラ変わったよね。」
「煩いわね!前のキャラに戻る気はないから!」
「いいよ。」
「え?」
「だって今の方が、橘さんずっと可愛いもん。」
「なっ!?」
いまだ抱きしめられたままで、相手の顔が見えない。でもきっと、世良くんは優しい顔で笑ってるんだろう。だって私の頭に触れている手が、とても優しい。
「何その冗談。」
「本当だよ。」
私は、遠くの景色を見た。遠くの空を、緑を見て、自身の腕を世良くんの背中に回した。そして世良くんの肩に顔をうずめて、
「………。有り難う。」
とても小さな声で呟いた。
「どういたしまして。」そう言うように、世良くんは私の頭を撫でる。
「てか、もういいわよ。離れてよ。」
「嫌だ。」
「何でよ。」
「だって橘さん滅茶苦茶、可愛いもん。」
「!、離れなさいよっ!」
私は思い切り体を離そうとしたが、離れなかった。そうして気づくのだ。お調子者で、お馬鹿で、そんな彼は、もう大人になる男性なのだ。私の非力が、敵うわけがないことを。
「橘さん。今から、“朱里ちゃん”って呼んでもいい?」
「何よ、それ。」
「そのほうが、親友っぽいよ。」
「!」
世良くんは、ちゃんと聞いてくれる。私の言葉を一言一句、逃さずに。
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