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「朱里ちゃん!」
「お帰りなさい。」
「ただいま。」
にこっと、爽やかで無邪気な笑顔。離れてから気がついた。後輩の女子たちは、みんなこの顔にメロメロにされていたのだ。
(私は断じて!格好いいなんて思わない!思わない!思わ…ずにいられない~!)
並んで歩いている途中、近くの電柱をバシバシと叩く。
「あ、朱里…ちゃん?どうしたの?」
「どうもしないわ。」
最近、さくらに言われたことがある。
「挙動不審になるところが菜乃に似てきたね。」
と。確かに、僅かではあるが自覚がある。そんな私を見る達也くんが、心配そうに此方を見ている。
今日はこのまま、歌子さんのお店でみんなと集まることになっているのだが。
「………。あ、あの。」
「何?」
「荷物、重くない?」
「全然。着替えしか持ってきてないから。」
「じゃあ…あの、ちょっと、遠回りして行かない?」
心臓がドキドキする。高校の文化祭で公開告白までしたのに。それ以上に恥ずかしく思えてしまうのだから重症だ。
「朱里ちゃん…。」
「な、何?」
「抱きしめてもいい?」
「やめて。」
(なのに、ここで素直になれないー!!)
どこぞの神様に、自分の愚かさを思い知らされている気分だ。
チラリと、視線を下に向ける。
ドキドキ…ドキドキ…
頬が硬直する。鼓動が早くなる。
ピトッ
私は、手の甲を達也くんの手にあてた。
「………。」
すると達也くんは、そのまま私の手を握ってくれて、
「ゴールデンウィーク以来だね。」
笑って、話をふってくれた。段々と頬がやわらかくなっていく。
「毎日、連絡とってるから、新ネタとか土産話はないけど。」
「何?新ネタって。」
繋いでる手を、子供みたいに前後ろに大きく揺らして歩く。たわいもない会話。それだけが、今はとても幸せだ。
真夏の太陽。蝉の鳴き声。日陰を通る涼しい風。
ジリジリと暑くて汗ばむのに、こんなにも穏やかな気持ちになれるのだから、君の存在は私にとって、最早、魔法そのものなのだ。
そして同じように笑ってくれる達也くんを見ると、明日は頑張れそうな気がしてくる。本当に君は、不思議な人だ。
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