君のせい。その後。

4/10
前へ
/32ページ
次へ
「朱里ちゃん!」 「お帰りなさい。」 「ただいま。」 にこっと、爽やかで無邪気な笑顔。離れてから気がついた。後輩の女子たちは、みんなこの顔にメロメロにされていたのだ。 (私は断じて!格好いいなんて思わない!思わない!思わ…ずにいられない~!) 並んで歩いている途中、近くの電柱をバシバシと叩く。 「あ、朱里…ちゃん?どうしたの?」 「どうもしないわ。」 最近、さくらに言われたことがある。 「挙動不審になるところが菜乃に似てきたね。」 と。確かに、僅かではあるが自覚がある。そんな私を見る達也くんが、心配そうに此方を見ている。 今日はこのまま、歌子さんのお店でみんなと集まることになっているのだが。 「………。あ、あの。」 「何?」 「荷物、重くない?」 「全然。着替えしか持ってきてないから。」 「じゃあ…あの、ちょっと、遠回りして行かない?」 心臓がドキドキする。高校の文化祭で公開告白までしたのに。それ以上に恥ずかしく思えてしまうのだから重症だ。 「朱里ちゃん…。」 「な、何?」 「抱きしめてもいい?」 「やめて。」 (なのに、ここで素直になれないー!!) どこぞの神様に、自分の愚かさを思い知らされている気分だ。 チラリと、視線を下に向ける。 ドキドキ…ドキドキ… 頬が硬直する。鼓動が早くなる。 ピトッ 私は、手の甲を達也くんの手にあてた。 「………。」 すると達也くんは、そのまま私の手を握ってくれて、 「ゴールデンウィーク以来だね。」 笑って、話をふってくれた。段々と頬がやわらかくなっていく。 「毎日、連絡とってるから、新ネタとか土産話はないけど。」 「何?新ネタって。」 繋いでる手を、子供みたいに前後ろに大きく揺らして歩く。たわいもない会話。それだけが、今はとても幸せだ。 真夏の太陽。蝉の鳴き声。日陰を通る涼しい風。 ジリジリと暑くて汗ばむのに、こんなにも穏やかな気持ちになれるのだから、君の存在は私にとって、最早、魔法そのものなのだ。 そして同じように笑ってくれる達也くんを見ると、明日は頑張れそうな気がしてくる。本当に君は、不思議な人だ。
/32ページ

最初のコメントを投稿しよう!

48人が本棚に入れています
本棚に追加