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>不思議なのはたーくんじゃなくて、恋そのものだよ!朱里ちゃん!
花火大会の当日に、菜乃ちゃんから可笑しなラインが届いた。
「ふふっ、変なの。」
思わず、独り言を呟いてしまう。
鏡の前で、何度も何度も自分の姿を見直す。
(帯、曲がってないよね?髪の毛、これで大丈夫だよね?)
「………。」
(変なの。なんか学生の頃と変わらないや。)
高校を卒業すれば、大学を卒業すれば、自然と大人になるものだと思っていた。
でもそんなことはなくて、こうして変わらず、一つのことにあたふたしてしまう。
迷って、悩んで、嬉しくなって…幾つになれば“大人”と、胸を張れるのだろう。今の私では、まだその答えに辿り着けない。
「よし!行こう!」
カタカタカタ
>家、出るね。
返信は「了解」の可愛らしいスタンプだった。
カランコロンカランコロン
下駄が鳴る。そこに、風鈴と賑やかな人の声が重なる。オレンジ色の提灯を見ると、何故か安心した。
カランコロンカランコロン
「朱里ちゃん!」
手を振って応える。
(毎年、思うけど…。浴衣姿、格好よすぎ!)
そして、誰かに伝えたい気持ちを心に仕舞い込んだ。
(あとで、菜乃ちゃんとさくらに聞いて貰おう。)
「朱里ちゃん。」
「何?」
「浴衣、すげー似合ってる。」
「………。」
それは流れるように。彼は自然に褒めるものだから、不覚にも赤面してしまった。
「あああ、有り難う。」
「ん。ねーねー、俺は?俺は?」
浴衣で、器用にも下駄で、回ってヒーローらしき決めポーズでドヤ顔してきた。
「………。うん、似合ってる。似合ってるけど残念。」
「え!?何それ!?結局どっちなの!?」
「ねーねー、それより…。」
***
「俺たち、あっちでかき氷買ってくるんで。折角だし、花火が始まるまで別行動しましょ。」
***
「私、かき氷が食べたいな。」
「え、あ、うん。行こう。」
シャリシャリシャリ
「んー。冷たい。」
レモン味のかき氷を頬張る。
***
「思い出に残るからです。」
***
「………。達也くん、達也くん。」
「ん?」
「これ食べたら、スーパーボール掬いしたい。」
「ああ、懐かしいな。あれ、菜乃が好きなんだよ。」
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