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知恵は口元で悪戯っぽく微笑み、頷くだけで意思表示した。
知恵の顔に覆いかぶさるように菊池は知恵にキスをした。
長く優しいキスシーンだった。
唇を離し、二人は見詰め合った。
「恋人にしてください」
菊池は声を上げて笑い出した。
「それは大値引きをした商品を手に入れて、さらにそれ以上高価な商品をおまけに付けて下さい、って言ってるようなもんだぞ」
「ダメですか?」
「でも君は後8日しか神戸に居れない」
「それでもいいんです」
「8日間の恋人か、まるで映画のタイトルみたいだな」
菊池はそう言いながら知恵を見詰めた。
知恵も嬉しそうに菊池の胸に再び顔を埋めた。
二人の後ろにはポール・ニューマンとロバート・レッドフォードのポスターがあった。
店内のBGMはいつしか、ジョン・レノンの「スターティング・オーバー」が流れていた。
カウンターの上には、弱い空調の流れでリトル・アーティストの花びらが小さくダンスをしているように見えた。
おわり
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