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「4年間おつかれさん」
その声と共にコーデュロイのシャツを袖捲くりした逞しい腕が、知恵の前にシンガポール・ジン・スリングを置いた。
年中休みの日をサーフィンで過ごして日焼けした顔が印象的なこのBARのマスターが知恵に労いの気持ちを添えてそう言った。
名前は菊池晋吾という。
「ありがとうございます」
リトルアーティスから目を上げて、知恵は微笑んで言った。
「早いものだ。もう卒業か」
菊池は広く両腕をカウンターについて知恵に言った。
「ハイ、楽しいことばかりでアッという間の4年間でした」
「俺も今気がつけば30も半ばになってる。トモちゃんが言ってくれなかったら40になるまで気がつかないところだった」
菊池はそう言い終ると、自分の飲みかけのロックグラスを知恵の前に差し出した。
知恵はそのグラスを見ると、自分のカクテルグラスを右手で持ち上げた。
「卒業おめでとう!」
「卒業は8日後ですよ」
「では、4年間アルバイトを勤め上げたことと、このサラトガに2年間通い詰めてくれたことに」
「ありがとうございます」
菊池の方からゆっくり知恵のグラスに軽く当てた。
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