昏い部屋

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昏い部屋

 友達が引っ越しをしたので、落ち着いた頃合いを見計らって遊びに行ったのたが、その部屋は妙に薄暗かった。  南向きの部屋で日当たり良好。壁も真新しい白色で、むしろ室内は明るい雰囲気だ。  だけど俺には、友達の部屋の何もかもが薄暗く感じられた。  いい部屋だなと当たり障りのない所から話を持ち出し、気を遣いながら、少し部屋が暗くないかということを会話に混ぜる。でも友達には暗さは感じられず、むしろ前の部屋より明るいくらいだと言った。  この部屋を暗いと感じるのは俺だけか。でも、どうしてそんなふうに感じるのだろう。  理由が判らないまま、昼でも夕方並みの暗さを感じる部屋を眺めた。  その日の帰り際、玄関先まで出て来た友達を見て俺は息を飲んだ。  部屋のドアを境に友達の体が半分外へ出ている。その、外へ出た半分は普通なのに、敷地内側の半身が薄めた墨でもかぶったかのように黒ずんで見えたのだ。 「お前、この部屋よくないよ! 今すぐ引っ越した方がいい!」  今日一日、喉の奥で燻っていた言葉が口をつく。けれどそれが友達に受け入れられる筈もない。  その場で暫く押し問答をしたが、まだ引っ越したばかりとか、この良物件を離れる理由がないという向こうの言葉に対し、俺が言えるのは『この部屋は嫌な感じに薄暗い。何か変だ』だけだ。これで誰かを説得するなどできる訳がない。 「もういい。帰れ! 二度と来るな!」  俺を突き飛ばした友達が一声叫んで部屋にこもる。それが、友達を見た最後だった。
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