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「でも芽衣子も知っているように、俺は小さい頃からずっとこんな身体だっただろ? 本当は長く生きられなかったのに、この歳まで生きることができた。おかげでたくさんの幸せを感じられたわけだ」
懐かしむようにたかちゃんは瞼を閉じ、思い出すように口を開いていく。
「俺に弟が生まれたこと、その数ヵ月後には芽衣子が生まれて、俺はふたりの兄貴になれた。そして奈々美と出会えて、ずっとそばにいられた。……みんなと同じように恋愛して、大切な人ができて。みんなに支えられて、ここまで生きてこられたんだ。だから正直、いつ死んでもいいと思っている」
「たかちゃん……」
後悔はない。
そう訴えかけてくるような力強い眼差しに、胸が熱くなる。
「……でも、ひとつだけ心残りはある」
ポツリと漏らすと、目を伏せるたかちゃん。
「大切な存在ができてしまったからこそ、心配なんだ。……俺は誰かを失う悲しみを知ることなく死ねる。でも、残された方は違うだろ? 家族も芽衣子も……奈々美も」
言葉が出ない。
だって、なんて言ったらいいのか、分からないから。
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