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青蛙と赤蛙
雲一つない冷たい青い空を見上げると、昨晩からの心の痛みから開放された。
昨晩、女将から、シンイチさんと私だけの夜咄の茶事にご招待いただいた。幻想的な蝋燭の灯りの中、京都という歴史ある場所のせいか、ここ数日古の人と時を過ごしたせいか、タイムスリップしたような気持ちになった。
茶事が終わると、シンイチさんは自分のホテルに帰る時に、
「明日は一日急な用事が出来てしまったので、申し訳ないが、明日はコウさんを案内する事が出来なくなってしまった。明後日にはここに書いてある所に午後2時に一人で行ってくれないか?そこの人とは話を通してあるので必ず行って欲しい。」
と玄関で言いながら、住所が書いてあるメモを渡した。
一週間京都の茶室を一緒に案内してくれるという事だったけど、私、何か粗相してしまったのかな、シンイチさんの話方も少しきつく感じられ、顔も強張って見える。魯山人さんと湯豆腐をいただいた後も電話をしたり、茶事の前も2時間くらいどこかにいらしてたみたいだし、何か本当に急用が出来たのかしら。
「はい、私の事など気になさらず大丈夫です。色々お気遣いいただいてありがとうございます。明後日にはこの紙にかかれた住所に午後2時に必ず参ります。きっと素敵なお茶室があるのでしょう。楽しみです。」
と私はメモの住所を確認しながら言った。南禅寺の近くの住所が書かれてあった。
シンイチさんは、強張った顔つきからいつもの笑顔に戻り、
「ではまたおやすみなさい 」
とだけ言った。
どこか緊張したシンイチさんの後ろ姿におやすみなさいと言った。
シンイチさんの玄関を閉めるピシャリと冷たい音に
この心の痛みを感じた。
翌朝、私は旅館を出たが、すぐに借りている町家に戻る気持ちにもなれず、青い空の下冷たい風を頬に感じながらぼんやり京都の街を歩いていた
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