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やけ酒
荻野奈緒がその店の木造りのドアを開けたのは、まだ開店して間もない時間だった。
馴染みのバーテンが奈緒を見て、少し驚いた顔をした。
「もう、いいかしら」
奈緒は親しげな顔でバーテンにそう聞きながらも、すでにストゥールを引いて愛用のブルガリのバッグを椅子に置いた。
「今日はやけに早いですね」
若いバーテンが、洗い物のグラスを磨きながら奈緒に言った。
「ええ、仕事終わりが今日は神戸だったから。ビールを頂戴」
カウンターの上に積み上げている陶器の灰皿を奈緒は勝手知ったようにひとつ取り、メンソール煙草に火をつけている。
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