1.カルネ電脳探偵所

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 コンロの火を止め、換気扇のスイッチを切り、両手に皿を持った東吾は上機嫌で応接室に移動した。  古びてはいるが掃除の行き届いているそこは、すっきりと片付いていて清潔感がただよっている。  部屋の真ん中にはローテーブルをはさんで、向かい合わせにソファが並んでいた。その奥にパーテーションで区切られている場所があり、東吾はそこに入っていく。 「昭」  声をかけた東吾の目には、パソコンに向かって微動だにしない小柄な青年が映っていた。オレンジがかった金髪に、身幅の薄い体。身長は平均よりやや低いくらいだが、東吾が傍に立つとさらにちいさく見えてしまう。 「おい、昭」  東吾が顔をのぞき込むと、細い眉をしかめた彼から鋭利な視線を向けられた。針先のような鋭い目を見慣れているのか、東吾はヘラリと笑って“あきら”と書いたオム焼うどんを彼に見せた。 「昼飯」  フンッと鼻を鳴らした昭――薄田昭――は、めんどうくさそうに応接室を顎で指した。 「すぐに来いよ。冷めるからな」  わかっていると目顔で答えた昭の、パソコン画面をチラリと見てから東吾は応接室のローテーブルに皿を置き、台所に戻って麦茶とカップをふたつ持ってきた。首をまわしながら、昭がパーテーションの奥から出てくる。     
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