1.カルネ電脳探偵所

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 細身で目つきが鋭く、人付き合いを苦手とする警戒心むき出しの昭を小型犬。どっしりとした体躯と男らしく力強い顔つきだが、人好きのする笑顔でオープンな東吾を大型犬になぞらえて、彼らコンビは業界内で“ドッグス”と通称をつけられている。昭はそれを不快に思っていたが、東吾はおもしろがっていた。通称があるのは、それだけ認知をされている証拠だし、なにより覚えられやすい。 (どんなものでも、仕事がくるのはいいことだ)  食べ終わった昭が口の中で「ごちそうさま」とつぶやくと、東吾は「おそまつさん」と返事した。麦茶を飲んだ昭がパーテーションの奥へ戻り、東吾は食器を洗いに台所へ行く。  後片付けを終えた東吾もパーテーションの中に入って、自分のデスクについた。けれど東吾の仕事はない。彼はプログラムだとかなんだとか、そういうものは苦手だった。しかし昭の望む仕事のためには、東吾の存在は欠かせない。  東吾は自分専用の仕事道具に目を向けた。ふたりのデスクの背後に横たわっているカプセル。あれを使う仕事を、昭は望んでいた。 (けどまあ、そうそうダイヴの仕事が来るわきゃねぇよなぁ)  バーチャルリアリティと呼ばれる体験型アトラクションが流行し、恐ろしい勢いで技術が進歩すると、SNSまでが仮想空間として体感できる世の中になった。自分の望むアバターを作成し、それを媒体として自分の意識でSNSの世界を過ごす。仮想都市でのやりとりが、もうひとつの生活として人々の間に定着すると、事件と呼ばれるトラブルが当然のごとく発生しはじめた。     
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