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1.カルネ電脳探偵所
繁華街からすこし離れた場所に、林立している雑居ビル。そのなかのひとつ、皆森ビルの四階から、ソースの香ばしい匂いがただよってくる。
キッチンと呼ぶよりも、台所というほうがふさわしい場所で、ひとりの男が中華鍋を手慣れたしぐさで振るっていた。
鼻歌交じりに料理をしている男は、筋骨隆々とした偉丈夫だった。クセであちこち跳ねている、硬めの茶髪に意志の強そうな眉。通った鼻筋に大きな口。硬質で角ばった、男らしい輪郭をしている。しかし、その目が人なつこい犬のように、やわらかなタレ目をしているので威圧感はない。エプロンが妙に似合っている彼の名前は、雨宮東吾。
東吾は中華鍋の中身――焼きうどん――を平皿ふたつに分けて、ザッと鍋を洗ってすぐにコンロの上に戻し、片手で器用に卵を割り入れて撹拌すると、半熟になったところで焼きうどんに乗せた。
「よっし」
ふわふわ卵のオム焼きうどんの出来栄えに、ただでさえ下がっている目じりをさらに下げ、中華鍋を洗うと火にかけて水分を飛ばしている間に、ケチャップで卵に文字を書く。
ひとつは“とうご”で、もうひとつは“あきら”だった。
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