第十三章 筆折り損の

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「なに?」  井上が振り返る。 「え、いや…」 「そう」  再び向いた背中から目をそらす。  聞かれるほど見つめて…見つめていたか。 「今日、あいつの結婚式行ってきた」  ぼそっと言い井上の手が俺にマグカップを差しだす。  無言で受け取ると火傷しそうに熱く感じた。 「…ああ」 「俺はちゃんと祝ってけじめつけてきた」  ジャケットを脱ぎながら井上が隣の部屋に消えるとガチャガチャと音が鳴りスラックスとシャツという出で立ちの井上がベッドに腰かける。 「お前はどうなんだよ」 「俺は…羽川に会ってきました」 「それで?」 「終わらせてきました」 「それで?」  それで、とばかり繰り返す井上を見つめる。  少し怒ったような顔だ。  当然か。 「それで俺は…」  胸がいっぱいになってこぼれだしそうなほど感情は溢れているのに、何から言えばいいのか。  好きから?  ごめんから?  それともどういう経緯で扉の前に居座ったか?  なんて言えば正確に伝えられるだろう。  文章を書くみたいにスラスラ出てこなくて途方にくれる。  言葉に詰まっていると井上はベッドから倒れこむように詰め寄ってきた。 「井上さっ…」  殴られる気がして俺はとっさにギュッと目を瞑る。 「…俺からは言わないからなっ」   くるはずの衝撃はなく。井上の拳は俺の胸ぐらを掴んでいた。  あぐらをかく俺に馬乗りで、井上は絞り出すように言う。 「…っなんで来た。なんで今日来た」 「俺は…」
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