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一年後
「平……また書いてる」
「締め切りあるから」
「朝甘えたいじゃん。俺今日休みなんだけど」
「俺はここにいるだろ」
「俺はこっちにいるじゃん」
キーボードを叩く手を止め振り返ると、ベッドの上で唇を尖らせる井上はTシャツ一枚で布団を引き寄せた。
「とりあえずパンツ履いてください」
「いいじゃんもう一回すれば」
「この淫魔…」
「淫魔じゃない。ただ淫乱なだけの男だ」
「同じだろ」
全くケツを掘られる方のセリフじゃないだろう。
我が恋人ながら朝っぱらから性欲のお盛んなことだ。
今書いている原稿の締め切りが近いのは本当だった。
それでも間に合わないほど追い詰められているわけではないが ”何も書けない期”と呼ぶスランプ がいつ来るかわからない以上筆を止める気はなかった。
画面に向かうと背後から朝日と一緒にあからさまに不機嫌なオーラが伝わってくる。
「確かに俺書けって言ったよ?筆を折るのはもったいないとは言った。でも俺が放って置かれるとは思ってないんだけど」
「うん」
適当な相槌を打ちタイピングを続ける。
羽川胡太郎に折られた筆は、彼が願ってくれた通り順調に物語を描いている。
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