第1章

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御主人が、 「人を呼んで来ます。墓地までは車が入れないので、担いで行くしかないのです」 と言うと、奥様と親父を残して、どこかに消えました。親父は御主人が戻るまでの間、少し辺りを歩きました。何の異常も無い集落だと思って歩いていると、やがて親父は妙な違和感を感じました。 街灯がまず無い。どんな田舎でも、街灯はあります。それが1本も無い。それに、民家に窓が無い。いや、窓どころか入口の無い民家もありました。歩いていると、頬被りをした村人に出合いましたが、皆、深々と頬被りしていて口だけしか見えませんでした。 やがて、御主人が、 「お待たせしました」 と言って親父を呼びました。車に戻ると、深々と頬被りした村の男達が4人来ていました。 それから、4人が棺桶を担いでくれて、坂道を上がって行きました。親父も御主人と奥様と共にあとをついて行きました。 やがて、墓地に着くと、既に深い穴が掘られていて、棺桶を中に下ろしました。4人の男達は鍬で土をかけて、棺桶を埋めました。 それにしても異常だったのは、男達の頬被りでした。鼻も見えないほど、深々と手拭いで顔を覆い隠していたことです。あれでは前が見えないはずだと親父は思いました。 そこへ、立派な袈裟を着けた僧侶がやって来ました。僧侶は頬被りもせず、ごく普通の僧侶で、棺桶を埋めた場所で読経を始めました。 やがて、読経が終わると、御主人が親父に、 「遠いところまで、本当にありがとうございました。これで一切の事を終えることができました。」 そう言って、礼を述べました。 それから、親父は再び目隠しをされて、御主人の運転で集落をあとにしました。 そして、行きに目隠しされた橋まで来ると、目隠しをはずされ、そこからは親父の運転で東京に戻ったのです。後日、親父は山梨県の「目隠橋」について調べました。すると、甲州武田家の隠し金山と関係がある事がわかりました。金山の場所を秘するために、金山に連れて行かなければならない余所者をこの橋の場所で目隠しをしたのだそうです。武田家滅亡後は、徳川幕府が密かに金を採らせたとも言いますが真実はわかりません。 親父の話はここで終わっています。
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