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「ねぇ、知ってる? あそこの廃病院の噂……」
「なになに?」
「幽霊がね、出るんだって」
岡谷は忍び足で廃病院の敷地に入った。
「ね、ねぇ。ほんとに行くの?」
手をつないだ沙織が言う。どことなく声が震えているのは、気のせいではないだろう。
「大丈夫だって。何にも出やしないよ」
罰ゲームであった。
友人とのカップル同士のボウリング勝負に負けた岡谷たちは、廃病院での肝試しを命じられたのである。
「ほ、ほんとに大丈夫?」
「大丈夫だって」
言いながら、廃病院の中に足を踏み入れる。
病院の中は暗い。懐中電灯で先を照らす。
と、いきなり奥で物音がした。
「きゃっ!」
声を上げて、沙織がうずくまる。
奥谷は懐中電灯の光を、音のした方に向けた。
「猫だよ」
苦笑して、言う。
「も、もうやだー」
うずくまったまま、沙織は情けない声を上げた。
「だから幽霊なんていやしないって」
岡谷は沙織に手を差し出した。
「たとえいたとしても、俺がいるから平気だよ」
「ほ、ほんとに?」
「ああ」
「ほんとのほんとに平気?」
「当たり前だろ」
沙織が岡谷の手を握ってくる。
「さあ、さっさと罰ゲームを済ませちゃおうぜ」
「ねぇ」
「なに?」
「ほんとうに、平気なのね?」
ゆっくりと。
沙織が顔を上げた。
「知ってる知ってる。女の人の霊なんだよね」
「いや、それが最近さ。増えたらしいんだよね、もう一人」
「もう一人?」
「男の人の霊が」
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