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雷雨の夜
突然窓の外がまぱゆく光った。
天気予報では夜遅くから雨が降り出すといっていたが、どうやら雷のおまけつきらしい。
どうせ俺は朝まで仕事だ。雨の方が客足が減って楽ができる。
そんな怠け心を湧かせていた時だった。
窓の外が明りのついた店内を凌ぐ程光った。その際に雑誌コーナーの外から差し込んだ人影。
外に人がいる?
店内より外の方が明るくなった一瞬、窓の向こうに人の姿が見えた。でもこんな雷雨の日に、わざわざ外に佇んでいる人間がいるとは思えない。
コンビになんてぼぼ四角いだけの建物だから、雨を避けられる屋根なんてない。
雑誌コーナーの外には喫煙スペースがあるけれど、こんな雷雨の中で煙草を吸ったりはしないだろう。
暗さと雨で、ほとんど見えない窓外を見る。誰かいそうな感じはない。
でも、そう思った次の瞬間、稲光の中にまた人影が見えた。
いる。確かに外に誰かいる。
あの位置じゃズブ濡れだ。どうして中に入って来ないんだろう。
まさか、本当に煙草を吸ってるんじゃないだろうな。それとも遠慮深い人で、濡れているからこそ店内に入ってはいけないと思っているとかだろうか。
前者なら好きにして下さいだが、もし後者なら、こっちから声をかけてあげれば、こんな雨の中で外に立ち尽くさずにすむだろう。
大きめのタオルを一枚用意し、俺は店の外に顔を出した。でも喫煙所周りに人はいなかった。
一応周辺を見回すが、駐車場には一台の車も停まっていないし、人が隠れられそうな場所もない。
二度も見たのに、人がいると思ったのは気のせいだったんだろうか。
首を傾げながら店内に戻る。その瞬間、世界が闇に包まれた。
停電だ。
この雷じゃ仕方がない。ほら、今もこんなに近くで鳴っている。
暗くなった店内に稲光が差し込む。その輝きの中に、見間違えようのない人の姿があった。
たったいま、この目で誰もいないことを確かめた。なのにその位置に人の姿が浮かぶ。雷の光に照らされて、くっきりはっきり浮かび上がる。
すぐに停電が直り、店に明かりが戻った。でも俺の心に安堵感はない。
雷が鳴るたびに見える人影。
深夜のコンビニバイトを始めて長いが、今日程夜明けが待ち遠しい日はない。
雷雨の夜…完
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