0:鏡合わせの狂い咲き

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学生やちょっとした出入り業者と教師が面会するための簡易的な応接区域は、それでも衝立を以て「部屋」の雰囲気を醸し出している。 普段は忙しなく人が動いていたものだが、夏休みに入った直後で、いくらか落ち着き静かになったこともまた、印象の要因として大きいのかもしれない。何度か来たことはあるのだが、いつも以上に隔離されている気分になる。 外に蝉と部活動、内にいくらかの話し声。適当にカットされた雑音の中で、もう何度時計を見たものか。つい溜息をこぼしてしまうが、咎める人もいない。 「悪いね、急に」 「いえ、大丈夫です。用事もありませんし」 「相変わらずつまんない生活だねぇ!……あぁ、いや。相変わらず都合がいいやつだねぇ!」 「フォローしたかったんですか?追い討ちしたかったんですか?」 「いや、失礼。とりあえずボタンでも外して、ちょっと待っててくれ」 こんなやり取りをしたのも、もう五分ほどは前だろうか。細い目をさらに細めて、ニコニコというよりはヘラヘラと、手を叩いて俺を迎えたのが井島先生だ。 こんな無礼極まりない言動でも、二年間世話になった顧問であり、大真面目な時は大真面目な大人だ。その彼が大事な話だから、と呼びつけた以上は、ある程度の緊張をしたのだが、こう待たされては気も抜ける。式典に合わせて一番上まで留めた、シャツのボタンを外したりはしないけれど。
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