第2章 日課

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……よし。ここでさりげなく名前を聞けたら……。 聞こうと決意を固めていると、思わぬ形で名前を知ることが出来た。 『飛鳥(あすか)~!』 廊下の向こうから可愛らしい女の子の声が聞こえたかと思えば、彼がその声に反応して振り向いた。 そのまま女の子はこちらまでやってきて、彼の隣に並ぶ。 綺麗なウェーブのかかっている栗色の髪の女の子だった。 その女の子の後に、もう一人友達がやってきて『和樹、早く行かないと遅れるぞ』と彼を促している。 自分で聞こうと思った名前はいとも簡単に聞くことが出来た。 飛鳥 和樹(あすか かずき)というらしい。 自分が何も聞かずに知ることが出来たんだ。 名前を知れた。 それで良かった、良かったのに……。 自分で聞きたかった……、と心のどこかで思ってしまうのは私の我儘なんだろうか。 それから彼は、栗色の髪の子と友達に連れられて行ってしまった。 笑って『じゃあね』と後ろを向いて手を振ってくれる彼に、私も振り返す。 振り返していると、視線を感じた。 彼の横を見ると栗色の髪の子がこっちを見ていた。 鼻筋が通っていて、綺麗な目、ふわふわの髪の毛。 どこをどう見ても端正な顔立ちの女の子が、じっと探るように私を見ている。 ……その目はとても大きくて綺麗だったけど、少しだけ怖かった。    
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