第2章 日課

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「ほほーん」 その件も話してしまうと、お面の人はまた気の抜けた言葉。 沢山聞いてくる割に、私が多くを話すとどうでも良さそうに相槌を打つ。 じゃあ、なぜ聞くの!? 私もうっかり話してしまったけど……。 問い詰めたくなる返答に、ぐっと自分を抑えた。 「私の話はいいんです! あなたの名前は?」 「人に名前を聞くときは自分から名乗るものでしょ」 正論を言われ、ムッと眉間に皺を寄せてしまった。 「篠宮 咲良です」 「篠宮さんって言うんだ。覚えとこ~」 「で、あなたの名前は?」 そう聞くと、ウサギお面さんはスクッと立ち上がって、自分のお尻の汚れをぱんぱんと払い出した。そして私の方に振り返り、ニコッと笑ったような気がした。 実際には笑った顔かどうか見えないから分からないけど。 「教えない」 人に名前を聞くときは~とか言ったくせに、自分は教えてくれないなんて! 「え、私名乗ったのに!」 「教えたらつまらないでしょ?」 「そんなことないよ。教えてくれた方が今度お面外してるときに擦れ違っても分かるでしょ」 「分かってどうするの? 話しかけてくれるの?」 慌てて言った私の言葉に被せるように、さっきとは少し温度が違う声色が返ってきた。 さっきまで人を茶化したように明るい声だったのに、急に声のトーンが低い。 怒っているとかじゃなくて、少し寂しそうな……悲しそうな……そんな気がした。 「え、あの」 余計なこと言っちゃったのかな。 なんて答えたらいいか分からなくなり、口籠ってしまう。 え? もう早くも知り合いみたいな気持ちになってきたし顔分かったら学校でも普通に話しかけるけど……それはダメなのかな? 学校では話しかけて欲しくない? おろおろしていると、真上からフフッと優し気な笑い声が聞こえる。 見上げると、ウサギお面さんが「じゃ、また」と私の頭を一撫でして颯爽と去って行ってしまった。 すたすたと遠のいて行くその背中を見つめ、ぼんやりと思う。 ウサギお面さんは、私に顔がバレたくないのかな。    
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