第1章 ウサギ

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蒸し暑い夏の日。学校から離れた場所にあるテニスコート。 木々が辺りに沢山植えられていて、木陰ができる場所だった。その上、草花が生い茂っていてその場所にいるだけで涼しい。 木陰ができるその場所から、1人でテニスコートにいる人物を見る。 いつも全体練習が終わった後、みんなが帰ってから自主練をしている男の子。 制服よりもジャージ姿の方が似合っていて、動いてる姿がなによりも綺麗で格好いい。 今日も素敵だな……。 そう呟いてぼんやり見つめていると、にゅっと目の前にウサギの顔。 「なにしてるの?」 いや、違う。ウサギじゃない。 人だ。 この時、私は息がつまった感覚に襲われた。 ああ、そっか。 これが怖いってことか……。 目の前にいる変わった人を、無言で見つめながらそう思った。 【内緒のウサギくん】 遠足は家に帰るまでが遠足だと言う。 じゃあ、恋愛は結婚までが恋愛だと言うのかな。そうだとしたら、片思いはどこまで片思いなのだろう。 どこで、どの場所で片思いを終わらせればいいのだろうか。 相手に好きな人が出来たら? 振られたら? 両想いになれば簡単に片思いを終わらせられるのに、そうならなかった場合どうすればいいのだろう。 ぼんやり、一人の青年を遠目から見たそんな夏だった。 篠宮 咲良(しのみや さくら)、高垣高校2年目の夏。 この学校はスポーツ関連に力を入れていて、サッカー・テニス・柔道は常に全国でトップクラス。 野球は甲子園常連校だ。そんな周囲から見たら華やかな高校にいる私はクラスにどこでもいるような存在。クラスの真ん中に人が寄れば窓際でそれを見て少し微笑むくらいしかできない……そんな生徒。正直微笑むこともせず、無の表情で見ていることが多いかもしれないけど。 そんな地味で何の特技もない私にも、好きな人は一丁前に居る。その人は私が高校に入って初めて、すごく優しいと思えた男の子だった。   
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